猫の居場所

息がつまる通勤電車から見える駐車場があった。車が停まっているところを一度も見ることはなかった。街の中心から北へ向かう大通りに面した駐車場だ。大通りに面してるものの、街の中心から近すぎて、誰もそこには車を停めない。

駐車場はやけに日当たりがよく、茶トラの猫が毎朝毛繕いをしていた。そこだけ時の流れが違っていた。駐車場と茶トラだけが浮いた明るく暖かい世界があった。その世界を眺めていると、少し気が楽になった。

今朝、何の前触れもなく、その世界は無くなっていた。重機が出番を待つかのように静かに腰を据え、爪を研ぎ澄ませていた。既に一部は掘り返されて土が露になっていて、その暴虐ぶりが見てとれた。その力を見せつけるように。金を生む土地を作り出さんとしているのだろう。

茶トラはいつものように、その駐車場を訪れたのだろう。その虐殺現場を目にしてどうしたのだろうか。きっともうそこに茶トラの世界は無いし、それに代わる場所にもならない。茶トラは踵を返して去ったに違いない。そこに怒りや悲しみがあったかもしれない。

それでもまたお気に入りを見つけ、その身を安らげて、新しい秩序を産み出すだろう。猫なんてそんな生き物だ。今もどこかで寝てるか悠々と歩いているだろう。

 金を生む何かに変わったとしても猫が安らげる場所になってくれるならそれが一番だ。