しごと
僕の職場はビルの中にある。
自動ドアをくぐると、表現できない空気が巻き付いてくる。
ぎゅうぎゅうのエレベーターに乗る。2m四方の狭い空間では誰もが物音ひとつ立てまいとしていた。おかしな秩序は他の人にも強制する絶対的な力を持っている。その力は僕の呼吸さえも抑圧する。不自然な光だけが主張する世界だった。
席について、パソコンを起動する。声を押し殺したあくびみたいな音を立ててパソコンは活動をはじめる。それと同時に僕も声を殺してため息を吐く。仕事をする自分にならなくてはいけないのだ。
仕事をしているとき、僕の脳味噌はキッチンペーパーをまかれて放置される豆腐のように感じる。ぼんやりと乾いていく。
脳味噌は水分を奪われていく。乾きを感知しないように意識のセンサーをどこか深くへ押し込める。そうでもしないとやっていけないのだ。
そうして僕は1日の1/3をやり過ごす。
ビルを出ると意識がクリアになって人の声や音楽がハッキリと聞き取れるようになる。
晩秋の心地よい寒さが包んでくれる。乾いた空気が痛覚を程よく刺激する。
自分はまだ生きていた。
自分の命を捧げて自分はまだ生き永らえている。